担当者より【サクラマスと撃投】
「釣れない釣りから導かれる。貴重な何かのハナシ」記憶からのつれづれ。
その方とは、兵庫県円山川の本流でお会いした。
水温は6度。まだ氷ノ山のところどころに雪が見える。
腰まで冷たい流れに浸かり、
対岸のテトラ帯に向けてキャストする。
スパゲティくらいの太さをもつシンキングライン。
それをキャストし終えれば、流れに馴染ませ、
ほどよく沈めるのに、数秒かかる。
その数秒の間に、3歩だけ下流へと下がる。
ラインに水圧がかかり始め、
それに引かれたフライは流れを横切り始める。
やがて、ラインは自分の下流にまっすぐ
なびきはじめれば、ラインをたぐる。
また、対岸へ向けキャスへをし、
ラインを馴染ませ、2歩下がる。
18フィートの竿で、それを、延々と繰り返す釣り。
夜明けからスタートし、数時間。
川からは何の反応も得られない。
それはいつものことなので、もはや苦にすら感じない。
午前中の釣りを終えるころには、
日照で溶けた雪解け水が川に流入しはじめる。
濁りも入る。
ずっと集中していたから、気が付かなかったが、
相当に疲れが溜まっていたようだ。
そのランで最後のキャストを終えると、
ドッと疲れがきた。
起伏のある葦の河原を歩いて、
ほん100m先に見えている自分の車まで戻る。
その気力がでない。
ネオプレンウェーダーを履いたまま、
河原の葦の近くで寝てしまった。
少し風があれば、寒くて、そんなことはできない。
その日は幸い無風で、それができた。
おそらく30分くらい? 寝て。
やはり車まで戻ろうとし、
分厚い5ミリのネオプレンウエーダーで歩くのは、
とても疲れたことを覚えている。
胸まであるウェダーをよろけるようになりながら、
時間がかかりながら、脱ぎ、
そのまま今度は、河原の車の中で寝た。
たしか、営業出張から帰ってきた翌日、
大した睡眠も取らずに、川へ向かったからだ。
車内で泥のように寝た。
大好きな釣りに来ている。
それなのに、とてつもなく過酷。
でも、やめられない。
九頭龍と千代川がメインだった。
休日は全て、通いに通い。
サクラマスのことばかり思って、過ごしていた自分。
考え、キャストの練習をし、フライを巻いて、
数年かけて、やっと釣った1尾目。
ランディングしたあと、
魚を前に川の中で座り込んでしまった記憶があります。
「やっと、釣れた」
そのあともやめることができなかったのは、
1尾目を、リリースで終えることが
できていないからです。
そのサクラマスは、喉奥深くまで
5/0のフックを飲み込んでしまい、
すでに鰓が傷ついていた。
不思議な感情です。
魚釣りをしているくせに、
魚を大事に思う。
リリースは叶わない。
泣く泣く、ナイフで、手を合わせながら締めた。
殺してしまったのだ。
秋の産卵のために、堰堤を越え、必死で上がってきた魚を。
メスだった。
やめられないのは、そのためです。
あと1尾、釣れてくれ。
あと1尾。
次の1尾をリリースで終えない限り、完結しない。
やめられない。
話を戻すと
その日の円山川でも、そういう感覚が自分を覆っていて、
ずっと、キャストとステップダウンを繰り返していた。
もう、25年前。
リリースで完結するために
憑かれたように、2尾めのサクラマスを追っていたその頃。
ちょうど隠岐や但馬で、
撃投の仕事に打ち込みはじめていた、同じ頃です。
さて、河原の車内で仮眠から覚めたのは、
たしか3時くらいでした。
わたしは、夕方のワンチャンスを、
目星をつけていたランで釣るために、
そのランの流れ込みあたりに戻った。
そこは対岸がテトラ帯、
流芯は左岸のテトラ帯に寄っていてる。
約150メートルほどのラン。
九頭竜や千代川と違い、
ほとんど釣り人と会うことがない。
ましてやサクラマス狙いの方とは
数えるほどしか会ったことがない。
当時円山川はそんな状態でした。
それでも、夕刻のマズメをそのランで釣るために、
つまり先行権を得るために、
ランの最上流部に早めに着きました。
そこにあった大きな流木に、背中を預けて、
流れを眺めながら座って待っていた。
「4時から、流そう」
そう思って、待っているうちに、
いつの間にかまたうつらうつら
眠ってしまったようでした。
目が、覚めたのは、自分のすぐ隣で、
ザッザッザッという足音
河原を踏みしめる誰かの足跡に気がついたからです。
逆光でした。お顔はよく見えていない。
その方も1人。
単独。
私も1人。
単独。
手にはスピニングリールとロッド。
逆光の中
特徴的なハットが印象的。
その方が私に尋ねました。
「ここ、やっていい?」
高圧的でもなく
エラそうでもない。
その人にしてみたら
「寝ているフライマンが一人いるけど、もしかすると、
このあとここをやるつもりかもしれないから、
寝ているようだけど一言かけておこう」
そういうマナーからだったんだと思う。
その方は
スポーツザウルス代表、故 則弘祐さんでした。
則さんは私がオーナーばりの社員などとは
もちろん知らない。
けれど、わたしはもちろん存じ上げている。
雑誌などで頻繁に拝見していたから。
その、オーラに圧倒されて。
わたしは、則さんの釣りをそのあと、
則さんがランを釣りくだり、
ラストキャストを終えるまで見ていましたした。
一定のリズムで、淡々と川を探り尽くす釣りでした。
則さんが、釣り下ったあと、自分が流してもムリだろう。
自分はそう思った。
終えたあと
則さんは、なんと少し上流にいる、
私の方に来てくれそうになった。
恐縮すぎて、自分は慌てて則さんの方に
河原を向かいました。
「フライ? あたった」
「いえ、まったくアタってません」
「いないね、ここ」
そういって、引き上げてていきました。
釣り終えたからといって、そそくさと帰らない。
かといって、話し込むわけではない。
則さんと一対一で、業界人としてではなく、
釣り人として
河原で言葉を「かわす」記憶を
わたしに置いていってくれた。
釣れない釣り
サクラマス。
釣りは、魚と人だけではなく
人と、人をつなぎます。
ほんの一言二言の会話が、どれほど貴重なものか。
そんな、経験が、多くはないけど自分には幾つかあり
豊かなものだと思うんです。
公式のインスタグラムにも書きましたが、
今週末の北海道のセミナーでは、
知っていることを全て、時間の限りお話します。
北海道では、
私にとっての、憧れだったたった1尾のサクラマスのように
いま、初ヒラマサを求めて
ショアからキャストするアングラーが増えているようです。
いまこれをお読みの
あなたは、なぜ?
なぜ、わざわざ、
こんな釣れない釣りを志し
なぜ、船に乗らず
オカから釣ろうとするのですか?
その、答えのようなものを探すのも、
釣れない釣りの魅力です。
釣れない釣りは
知り合う者同士の、共感も大きい。
記憶も貴い。
個人的な主観ですが、
だからこそ、というのがあります。
札幌でお会いできる皆様へ。
必ず求めていた1尾のヒラマサと出会い、
言葉を失う満足。
それに出会うときが来ます。
その先には、さらに新しいターゲット、新しいエリア、
先は果てしない。
北海道のヒラマサ、と、出会おうとする方の、
なにか一助になれるようなお話しを、必死でします。
いつもそうしているつもりです。
よろしければ、ご来場ください。
もう、これは仕事とか、商売とか、
そういう次元のお話ではありません。
私の満足のため
来場者の満足のため
そのためです。
あと2ヶ月で定年です。
すでにフィッシングショーなどは戦力外通告を受けています。
こういった機会での、対面での伝達には、
わたしはものすごく価値を見いだしています。
撃投サイトにレポートくださった歴のある方は、
お申し出ください。
わずかですが、アシストフックを製作しました。
限られた人数様分ですが、差し上げたく思います。
今日は振替休日をいただき、
フライやアシストフックを巻いて、少し過ごしてました。
宜しくお願いします。
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